ことばの海

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プレゼント

十二月に入ると、途端に街は騒がしくなる。絶えず流れるクリスマスソング。一層大きくなる客引きの声。駅前にはイルミネーションが設置され、様々な色の電球が煌びやかに輝いている。
 久しぶりに訪れた新宿は、冬とはいえやっぱり嫌な臭いが漂っていた。人混みが苦手な私は、普段目的もなく街中に出かけることはない。今日も、友人に誘われなければ、何もせず家に籠っていたことだろう。それほどまで億劫な外出だが、別段断る理由もないし、何だかんだ言ってたまに街中に繰り出すのも悪くないと思ったのもあって、寝不足の顔もそのままに友人に付いていったのである。
 彼女への誕生日プレゼントを買うのだという彼は、黒いロングコートにグレーのストールを巻いており、落ち着いていながらも若々しく見える。彼の端正な顔立ちもその雰囲気を作るのに一役買っているだろう。不意に出てきたあくびを噛み殺す。
「なあ、誕生日とクリスマスのプレゼント、一緒にせんのか」
 対して私は、ダボついた厚手のパーカーといういで立ちである。少し大きめのサイズを好む私は、傍から見ればファッションに興味がないように見えるだろう。だが、私は私なりのこだわりをもっているのだ。
「それやると、あっちが怒るから」                
 彼は少し楽しそうにそう答えた。恋人ができると金を使うようになるというが、なるほどこういう事かと、今更ながらに思った。私みたいな感覚で生きている者がいるから、世の中の女性の憂いは消えないのだろう。
 人混みをかき分け、次々に商品を吟味していく彼に辟易しつつ、私は後を追う。「アドバイスをくれ」と言っておきながら、自分でプレゼントを探すことに熱中しているようで、少し目をはなすとすぐに何処かに消えてしまうのだった。その度、他の客に肩を擦りながら歩き回って彼を探すのだが、とうの彼は「これどう思う」と、私とはぐれたことさえも気づいていないようである。
 三時間くらい経っただろうか、ワインレッドのバッグを抱えた店員の後に、彼が続いた。代金を払い終え、安堵した表情を浮かべる彼を見て、彼にはここまで真剣になれるような人が居るのだなぁと、改めて思った。
 別に羨ましくはない、別に妬ましくもない。ただ、少しだけ寂しくなった。