ことばの海

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2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

勇者と鍛冶屋(3)

「やっぱり親父のようにはいかんかね」 ジリジリと蝉の声が五月蝿い。 俺は、先端が欠けた刀を、やりきれない想いで凝視した。 「はい、申し訳ないです」 固くにぎりしめた手は少し湿っていた。その湿り気がなぜか神経を逆立てる。 「いや、君のせいじゃあな…

勇者と鍛冶屋(2)

工房から、鉄を打つ音が微かに聞こえる。 規則正しいリズム、俺がよく聞き慣れている音だった。もはや生活音と言っても過言ではないその音だが、自分の鼓動のリズムと微妙にずれていて、どことなく不快だった。 「なんで」 店には俺一人のはずだった。 店の…

鍛冶屋と勇者(1)

雨が窓を叩く。掛け時計のチクタク音をかき消すような強い雨だ。今日は虫の音も、梟の鳴き声も聞こえない。 燭台の上に一本の蝋燭。それが、この部屋を照らす唯一の光源だ。あまりに弱々しく、か細い。 カウンターに突っ伏してみる。普段は木の温もりを感じ…