ことばの海

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穴が、穴が怖いのです。

ええ、そうなんです。いつの頃からなのかは、すっかり忘れてしまったのですけど。

なぜ怖いのか・・・・・・そうですね。

例えば、世界の裏側で誰かが泣いていたとしても、私たちはそれを知る術はありませんよね。

一人でいるとき、もし自分の真後ろの空間から、世界が少しずつ滅びていったとしても、それを知る術はありませんよね。

見えていないところって、結局、自分の目で見えていない部分って、この世界に存在していないことと同じことのように思えるんです。

でも、全く見えていないのですから、気にする必要もまたありません。絶対に知ることが出来ないのですから、心配していても仕方がないのです。

え?それが穴とどう関係があるのか、ですか?

そう焦らないでください。

底の見えない穴を覗き込んでいる自分を想像してください。底が見えないということは、その部分は世界に存在していないことと同じ事なのです。底の見えない穴を覗き込むということは、世界に存在していない部分を見ようとしているのと同じことだと思いませんか。

見えないから気にすることは無い。でも、穴を、穴を覗いてしまったら、見えないはずの部分を見つめていることになると思うんです。

いつか排水口の奥から人の腕が出てくるかもしれない、壁に空いた穴から蛇が出てくるかもしれない、底の見えないほどゴミの溜まったゴミ箱から得体の知れない物音が聞こえるような気がする。

そう思うとね、夜も眠れないんですよ。

でもね、穴って覗きたくなるものなんですよね。もしかしたらね、覗き込んでいる方には何も見えなくても、覗かれている方には見えているかも知れませんよね。そうでしょう。だって、底の見えない穴の向こうを知る術はないのですから、何が起こっていても不思議はありませんよ。

ほら、ちょうどそこの障子に穴が空いていますね。だれか覗いているのかも知れませんよ。とは言っても、私たちにそれを知る術はないのですけれど。あなたも、常に誰かに覗かれているのかも知れませんよ。

 

そう言って彼女は、少し笑った。