ことばの海

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旅立つ夏への手紙

なんとなくだるい。

夏はそんな季節だ。

半透明な薄い膜が、絶えず身体を覆っていて、その膜の中には、自分しか感じえない暑さとだるさの入り混じった液体とも気体ともつかぬ何かが、まるで浮遊霊のように漂っている。その膜は破れることはなく、いつまでも不快な何かを湛えている。

そのくせ、太陽の光はその膜をすり抜けてやってくる。光は身体に音もなく入っていく。火照った肉からは、汗が逃げるように去っていき、垂れた雫はアスファルトの上で灼かれていく。アスファルトを黒く濡らしたその汗も、押し寄せる日差しの波に飲み込まれて消える。まるで自分が、夏の意思に従わされ、夏を体現しているかのようだ。

遠くで聞こえる誰かの声も、夏の前に脆くも崩れていく。自分の思考も記憶も、汗と一緒に流れ出しているのだろうか。

身体を焦がす赤い昼間と、蒸されるような箱の中の夜を幾度となく越えていくうちに、気づくと、夏は遠くへ旅に出てしまった。

さようなら。また会う日まで、お元気で。