ことばの海

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継・嫉妬しますよ、その文才。

嫉妬とは醜い感情である。 しかしながら、嫉妬とは時に凄まじい力を持つ。私がこうして言葉を紡いでいるのも、単にその嫉妬のおかげである。 かといって、この言葉を紡ぐ行為自体が素晴らしいものかと言えば、それは甚だ疑問である。 要するに自己満である。…

プレゼント

十二月に入ると、途端に街は騒がしくなる。絶えず流れるクリスマスソング。一層大きくなる客引きの声。駅前にはイルミネーションが設置され、様々な色の電球が煌びやかに輝いている。 久しぶりに訪れた新宿は、冬とはいえやっぱり嫌な臭いが漂っていた。人混…

列だ。長い長い列だ。十一月も半ばを過ぎ、静かな冬の空気が漸く東京にも訪れた。地元の片田舎なら、とっくのとうに一面霜が降りている時期である。その煤竹色の田畑が広がる風景と、一年中ネオンが光り輝く都会との違いに、眩暈さえ覚えるようである。とは…

左耳

その日の目覚めは最悪だった。目覚ましの音を鼓膜が拾ったが、なぜか左耳だけが外界から隔離されていた。何年振りかに味わうこの感覚。一握りの懐かしさと、途方もない煩わしさが左耳の異常事態を告げた。 中耳炎。もしくは外耳炎。この病気に何度となくお世…

「目」【終】

悴んだ指が、家の鍵を何度か遊ばせる。ドアノブに手を掛けると、冬が来たことを告げる音がした。 「ちっ。」 芳賀はイラついていた。鍵をうまく開けられなかったことでも、静電気を受けたことでもない。課題があるという現実に目を向けたからである。小さな…

暑い日

暑い。垂れ落ちた汗が、瞬く間にアスファルトに吸い込まれていく。自分の身体ですら、地面に溶けて消えてしまいそうなほどの灼熱だ。大げさなのは分かっている。だが、この湿度を伴う不快な暑さに対抗するには、多少頭がおかしくなるくらいでなければならな…

日記1

耳の奥から、何かが住み着いているような異音がする。その音は耳ではなく、ひょっとしたら頭蓋の奥から響いてくる音のようにも感じる。私はペットボトルの水で喉を潤し、濡れた唇を拭った。左の指先から鉄の匂いがする。温くなった液体が、胃の中に滑り込ん…

ある荒野にて。

戦があった。さほど大きな合戦ではなかった。それでも人が争えば死人も出る、死人が出るから悲しむ者も出る。嘆かわしい事だ、と玄海は思う。噎せ返るような血の匂い。しかし、この匂いに慣れてしまったという事実が、如何に残酷なことであろうか。 仏門に入…

僻み     

彼にはこれといった信念がない。信念がないというより、それを探し回って迷っているような印象を受ける。精神的な芯がないわけではない。寧ろ彼は、他の人間よりも強靭でしなやかな芯を持っている人物だ。しかし、その拠り所が問題なのだと、私は思う。 私が…

スイングをする理由

私は両手に懐かしい衝撃を感じていた。振り抜いたバットは、やや遠回りをしてボールの底面を擦った。ボールは激しく回転しながら視界の端に消えていき、背後でガシャンと音を立てた。久しく忘れていた感覚を思い出すことは楽しい。そして、意外にも自分のイ…

臭いと非日常

厭な臭いがした。何度か感じたことのあった臭いだったが、それでも厭だった。しかし、よくよく考えてみると、厭なのではなく、慣れない臭いだったといった方が的確な表現なのかもしれない。 私は三人の友人と共に居た。三人とも高校以来の仲である。時々こう…

出会い。

人と人とが繋がる瞬間というものは、例外なく美しいものである。大学生になった私は今までの人生とは比べ物にならない程の、「出会い」を見てきた。野球場の見える公園で、今日もまた、私は人の出会いを見ることになる。 学生とは基本的に群れるものなのだろ…

「人」嫌い

電車から流れ出でくる無数の人々を見送りながら、私は立っていた。それらがエレベータを下っていく様は、本当に車体から何かの液体が噴き出て伝い落ちているようにすら思えてくる。夜のホームには冷たい風が吹いている。あの流れに飲まれてしまえば、この素…

深海魚

雨が上がった夜の街を、私は走っておりました。アスファルトは黒々と濡れており、そこから立ち上ってくる冷気が足首にまとわりついてくるのを感じます。心なしか、浮かんでいる大きな月も水を湛えているようにも思えました街中が水気に満ち満ちていて、まる…

染みつく。

名前の横に五桁の数字をサインする。これにより私は、人生の中の貴重な数時間を削り取って、労働という行為に身を投じることになる。「こんばんは。今日も一日よろしくお願いします。」 何度目だろう。決まりきった挨拶は、相も変わらず口から零れ落ちていく…

出会ってしまった芸術

突き刺すような鋭い音が鼓膜を襲う。閉鎖された暗く狭い箱の中。人々の叫び声。汗はあふれ出て留まることを知らず、滴が鎖骨まで滑り落ちる感覚を、確かに私の肌は感じ取った。六本の弦の上を、彼女の細い指が踊る。その指はあまりにか弱くて、自らがかき鳴…

何故書くのか。

白い球体は地を這うようにこちらに向かってきた。それは小さな砂の粒を弾き飛ばし、不意に飛び上がった。体が無意識に反応し、身構える。刹那、左肩に衝撃が走る。痛みは感じない。今、この痛みは感じる必要のないものだからだ。私の体に当たったボールは地…

AKG20周年記念 『春』

私がその風変わりな少女と初めて出会ったのは、とある病院の中庭だった。 「この花は、何という花ですか。」 それが彼女の発した最初の言葉だった。 私は出版社に勤務している。昔から書き物をすることが好きで、いつかは小説家になりたいと思っていた。いや…

「目」【参】

生暖かい風が強く吹き付ける。地下鉄のホームは無機質で、それでいていやらしい程に生臭い。人という生き物から滲み出た諸々の滓や芥が、この薄暗い空間に溜まっているのだ。毎日の通学には、この地下鉄と最寄り駅へと繋がる線を使う。大学はわりと都会の方…

年末年始奮闘記 2

温泉旅館に来たのなら、まずは温泉に入るべきである。これは殆ど動かすことのできない道理だろう。何故なら、温泉が嫌いなら温泉旅館に来る必要が無いからである。突き詰めるならば、温泉に入りたいからこそ温泉旅館に宿泊するのだ、と言っても過言ではない…

AKG20周年記念作品のお知らせ。

私の敬愛するバンド、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが結成二十周年を迎えました。テンションが上がってしまったので、アジカンにまつわるワードを出来るだけ使って、短編を書こうと思い至りました。最後までお付き合い頂ければ幸いです。

年末年始奮闘記 1

山間の道を車で進んでいくと、目的の建物がそびえ立っていた。冬の山々は殺風景で、これで雪でも降っていれば多少絵になるのだろうが、あいにく暖冬のせいなのか今シーズンは一度降ったきりである。遠くを見渡すと、丁度幼稚園児が無造作に作った砂山のよう…

「目」 【弍】

整然と並んだ林檎を見つめながら、芳賀は思う。林檎に最初に「林檎」という名前を与えた者は誰なのだろうか。考えたからといって、答えが見つかる訳ではない。正直、どうでもいいことである。バイト先でこのような事を考えて居るとは、ほかの誰も思うまい。…

穴が、穴が怖いのです。 ええ、そうなんです。いつの頃からなのかは、すっかり忘れてしまったのですけど。 なぜ怖いのか・・・・・・そうですね。 例えば、世界の裏側で誰かが泣いていたとしても、私たちはそれを知る術はありませんよね。 一人でいるとき、もし自…

続・嫉妬しますよ、その文才。

優れた文章とは、私にとって絶望である。 最近の若者は読書をしないという。確かに、様々な娯楽が手軽に楽しめるようになった世の中、わざわざ何時間もかけて紙の束を一枚一枚丁寧に剥がし、そこに書かれた文字の羅列を延々と読んでいくという作業に、万人が…

冬と病熱

先日、私は喉を患いました。毎年のことなのですが、昼夜の寒暖差が激しくなるこの頃、喉を痛めては発熱するというお決まりのパターンがやってくるのです。 日曜日だというのに外に出かけもせず、日がな一日布団の中と自分の部屋の中だけで生活をしていました…

「目」【壱】

芳賀俊介は憂鬱だった。明日が試験の日だったからだ。試験と名の付くものたちとは、高校でお別れするものとばかり思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしく、大学でも定期的に奴らの恐怖に晒されている。 芳賀は悩んでいた。なぜ悩むのかというと、…

百鬼夜行#3 〜寿司になった妖怪〜

皆さんお寿司は好きですか? 今の時代、ありとあらゆるところに回転寿司屋があり、リーズナブルな値段で寿司を楽しむことができます。しかも最近の回転寿司屋も様々な工夫を凝らし、鮮度などの品質も向上していて、中々おいしいなぁと思う私であります。 寿…

ナンバーワンを目指さなくてもオンリーワンになれるのか?

先日、SMAPの解散が発表されました。国民的人気グループであり、その歌やメンバーの言葉に救われた方や勇気を貰った方はさぞ多いことでしょう。 さて、彼らの有名な曲に「世界に一つだけの花」というものがあります。日本人なら一度は聴いたことがあるであろ…

無題

誰かが自分に向かって、他の誰かの悪口を吐いていると、自分はまだ大丈夫なんだな、と思ってしまう。